無音と静寂 虫の声
まだセミが少し鳴いていますね。
ヒグラシが混じると、夏の終わりを感じてしまいます。
寂しいですねぇ。
秋の入口です。
ネクラな僕にはたまりません。
毎年言っておりますが、秋はアール座のメインシーズンとも言える心安らぐ季節です。
皆さん、思う存分現実逃避をして、どうでもいい物思いにふけりましょう。
減ってくるセミの声と入れ替わりに、秋の虫たちの声が盛んになってきますね。
さてさて、この時期がやってきました。
アール座では今年もまたスズムシ、マツムシ、エンマ他コオロギ数種を、今すでに飼育しておりまして、もう元気に鳴いてくれています(9/17)。
毎度のことなので企画の詳しいご説明は過去ログへどうぞ→2010・9 11.9 14.9
毎年同じこと言ってるのがバレます。
いつもながらこれだけ揃うと、虫の声と言っても種によって全く違うのが分かりますね。
この季節になると「外で鈴虫が鳴いてる」と言う声を耳にしますが、毎年アール座で色々な虫の声を聴いて下さる方には、都心部で聞こえてくる虫の音には、よお〜く聞くと鈴虫はいないことがお分かりになると思います。
コオロギなんですよね、あれ。 リューリューリューというやつ。
鈴虫の音色は、もっと余韻もたっぷりに「フィルルリィィン リィィン リィィン リィッ…」です。
「うるせえ。どっちでもいーわ」と思った方も、是非お店に来て聴いてみてください。
「ホントだ♥フィルルリィィン リィィン リィッだ♥」ってなりますから。
もちろん外のコオロギもいいですよね。
とても愛らしい声だし、枯れてるし、安らぐし。
でも、そのコオロギもよく聞くと本当に色んな種類があって、みんなゼンゼン違う声で鳴いてるんですね。
やっぱりソロよりも色んな虫を一緒に聞く方が楽しいです。
お勤め帰りなんかに、虫が鳴いてる夜の公園のベンチにちょっと座って、しばしその歌声を楽しんでから帰るといったようなことは、忙しい現代人には僕は本当にオススメしたいです(虫除けスプレー携帯しておきましょう)。
さらに鈴虫や松虫まで、本格的に美しい虫の音色を楽しむとなると、もう都内ではアール座に行くしかないでしょう。
「虫の声」と言えば、かの有名な童謡がありますが、自然界であんな風に色んなのが同時に鳴いてる状況ってナカナカないです。でもそれが実現してます。
少なくとも9月いっぱいは鳴いてくれると思います。
10月以降どこまで鳴き続けるかは毎年違うのですが、中盤以降は数が減ってなかなか侘びしくもなります(これもこれでヨイ)。
また、実は毎年この企画をやっていると、年によっても当たり外れがあるんです。
で、今年は今の所なかなかイイ感じです。
個体が元気なのか、カゴの分け方(結構難しい)が良かったのか、とてもよく鳴いてくれてるんです。
虫を屋内で飼うと条件や時間帯が変わったりして、なかなかウマい時間に鳴いてはくれず、ある程度の調整が必要なのですが、今年はこれも上手くいった感じがします。
夜間はお勉強の方たちにはちょっとうるさい位かもですが(ごめんなさい ;^_^A)、そんな時はいっそ手を休めてゆっくり耳を傾けてみるのも良いもんですよ。
しかし、羽こすってなんであんな音になるのか不思議でしょうがないです。
子供の頃、死んだ鈴虫の羽を2枚引き抜いて擦り合わせたことありますが、やっぱりあんな音しませんでしたね(あたりまえ)。ヘンな子でした。ひかないでね。
天才なんですね、彼ら。
それに虫の声って、人間が奏でる音楽よりも、風音や雨音みたいな偶然生まれる自然音に分類したくなるような神々しさを持っていますね。
音楽療法の世界では、同じ音楽でもCD(サンプリング音源)と生音だと、その効果(精神への働きかけ)がハッキリ違う、なんて話も聞いたりします。
不思議な所ですが、この企画でも虫の声のCDとか使わずに、わざわざ苦労して毎年本物を飼育するのは、やっぱりそんな気がするからなんですね。
静寂空間だからこそ、音は結構大切にしていますよ。
この頃では時々アール座も「無音カフェ」と思われることがありますが、皆様ご存知のように、ウチって全然無音じゃないですよね。
店内の話し声が無いだけで、結構色んな音しちゃってます。
時々初めてのお客様で、気を遣われて足音を忍ばせつつ歩いて下さる方もいらっしゃいますが、こんなことなので普通に歩いて下さいね。(^-^)
アール座が目指しているのは「無音」ではなく「静寂」なんですね。
細かいようですが、結構違うんです、この二つ。
例えば音響関連の専門施設で壁面全部が強力な吸音材で出来ている無響室という部屋ってあります。
「あ」とか言ってもそれがたちまち全部吸収されて全く残響せず、空間に一片の音も残らないのですが、TVとかで見てても(入ったことない)あの雰囲気って何かすごい圧迫感で、まず人が落ち着ける空間じゃないのが分かります。
人が心安らぐためには、きっと少しの音が必要なんでしょうね。
さらに「静寂」というものを深く感じようとするなら、音は必要不可欠な素材になってきます。
アール座を作る際に目指したイメージの一つに「森の中で読書」というのがあったんですが、森って実は結構色んな音がしてるんです。
だからこそ、とても静かなんでしょう。
例え話ですが、昔まだ小坊主だった千利休が「庭をキレイに掃いておけ」と言われて、庭の落ち葉を全てホウキで取り除いた上から、数枚の紅葉を散らしておいたというエピソードがあります(ヤなガキだね 談志風に)。
絵で光を表現する時、実際に描きこむのは陰の部分ですし、スイカに塩振るのだってそうでしょう。
何といいますか、輪郭の不確かなものを際立たせるためにその対象の反対要素を用いることがよくあります。
「静けさ」というものも、ちょっとの音があることで輪郭を持って現れてくるんですね。
ウチでは、開店前に水槽の水音が消えていれば、音を立てるようにセットし直します。
時計の鐘も思い切り鳴りますし、BGMも(厳しい条件で選り抜いたもののみですが)低く流しています。
で、そんな姿勢の一番極端な表現が、この時期の虫の声に包まれたアール座ではないかと考えております。
夜なんて虫が大きな声で鳴きまくってて、ハッキリ言ってうるさいくらいです。
でも、この時期は「それを聴いて頂くために静寂を犠牲にしている」というつもりは全然なくて、むしろ〜その人の感受性による所の大きい話ですが〜虫の声の響きまくっているその空間が、本当に静けさを具現していると思っているんです。
う〜ん、言葉にするのも無理がありますね。
禅問答みたいになってきました。
やはり実際に味わって頂きたい所です。
アール座では、虫たちは基本的には夕暮れから少しずつ鳴き始めて、夜更けに向けて勢いが増してゆきます(例によってBGMは切っちゃいます)。
湿度や気温の高い日とか、何か虫たちの時間帯がずれちゃった時とか、日によって鳴きの善し悪しもあります。
そして悲しいかな、閉店後が一番盛りです。(T-T)
但し、子供の頃からのトラウマとかで虫が大嫌いで、虫の声を聞くとぞぞ〜っとしてしまう方なんかは、すみませんが、もう少し時期をずらして下さいね。
今来るときっと死んでしまいます。