泣けるお話のすすめ

2012.05.03 Thursday 00:32

早くも、猛暑の兆しを思わせる暑い日が時々あったりしますが、それでも5月は総じて過ごしやすい季節です。

近頃の東京は、エアコンに頼らず心地良く過ごせる気候の日数が年々減って来ている気がするので、やはり貴重な季節ですね。
十分に楽しんでおきましょう。

所で最近、アール座のカウンターにスラッと背の高い爽やか風味の青年が立っているのを見かけた方もおられると思います。
彼は今度から店を手伝ってもらうことになった原君です。

なかなか人を雇える経営でもなくずっと一人でやって来たのですが、少々のっぴきならない事情が重なりまして、彼に夜の時間帯を手伝ってもらうことになり
ました。

アールヌーボーが好きな美大生の原君は、まだ若いのにこの店独特のコンセプトや役割を非常によく理解してくれています。

普通カフェなんかのバイトでは大まかなオペレーションのマニュアルに目を通してから、体で流れを覚えさせるような教え方の所が多いのですが、ウチのような店は少し事情も違うので、小さなケアから感覚的なホスピタリティの話までをちょっと神経質なくらい細かいマニュアルにして、覚えてもらう所から始めました。

最初は不慣れな点もあるかも知れませんが、すぐにコツをつかんで、店の空気を柔らかく繊細にコントロールしてくれる素養のある人材だと思っております。
皆様何卒よろしくお願い致します。

お客さんとして来てくれていた頃の原君もそうでしたが、この頃、疲労や悩みを抱えてアール座にいらっしゃる方が、この空間に癒されたと言って下さる(書いて下さる)ことが以前より増えて来て、大変恐縮しております。

商売としてのやり取りを超えた所で何かが出来る店を目指しているアール座として、これは本当にありがたく嬉しいお言葉で、ついつい自分の手柄のようにうかれそうになってしまいますが、でもよく考えてみると実際に店がやっているのは、ただ静かにしてお茶出してるだけなんですね。

なら、本当の所は一体誰が癒してくれているんでしょうね?
この辺に関して、店に立っていると何となく感じることがあります。

人は皆どんなに疲弊して弱っているように思えても、生きている以上は自分の中にメンタルな治癒力のようなものをちゃんと備えていて、少し静かな所で気分 を変えるだけで、それが機能し出して、知らない内にきちんと自分の精神状態を正しい位置に直してゆくように思えます。

何もせずにくつろいだだけで、気持ちの整理が出来たり気分が変わったというのがその証拠です。

我々は「癒される」という受動態の言葉を用いますが、ほんとはアレ、自分でやってるんですね。
人間の体ってすごいです。

だから現代を生きる我々は、ストレスを消化し、幸せな時間をチャージする時間を持つことを怠ってはいけないのです。

そこで、今回はそんなことに役立つ「泣ける話」なんかをおススメしてみましょう。

最近では、涙を流すことがストレスを軽減させると言う話も一般的になりました。
深い悩みを消化出来るようなことではありませんが、何となく気分がのらないというくらいの時には、あえて泣いてみることで結構気分の軸が変わったりもします。

所で、感受性が強い人というと「強い」という言葉とは裏腹に、一見弱々しい印象があったりしますね。
悲しみを前にして余計に辛い思いをさせる感受性の強さには、打たれ弱さにつながるイメージが付随するのでしょう。

よく思うのですが、こういう世間的な見方はいつも表面的で浅はかな所がありますね。
僕は豊かな感受性というものはいつだって人の強力な味方で、心を守ってくれるものだと思っています。

感受性が沢山の気づきを与え人生を豊かに彩ってくれることは言うまでもありませんが、悲しいことをちゃんと悲しめる力という意味でのそれは、長期的に見 てストレスに対する強い抗力と言えるんじゃないでしょうか。

風になびく葦の強さと言いましょうか、日頃悲しさを意識出来ない人の方が、台風でぼきっと折れてしまう木の枝のような危うさを持っているようにも感じます。

この点で優秀なのは小さな子供の態度でしょう。

あの人達は少しでも嫌なことがあると、そのつど激しく泣き叫んで発散するので、嫌な思いを持ち越さず、簡単にはストレスフルな状態になりにくいのではないでしょうか。

生物は他の物質と違って、有益なものを外から取込んで有害なものを出すという「代謝」を繰り返すことで定常性を保ち、必要な性質や状態をキープします。

だから、人の体もウィルスを取り込んだりを悪いもの食べてしまった場合には、とにかく体に回る前に鼻からでも口からでも下からでも急いで体の外に排出する緊急の処置が行われますね。

僕は子供の頃わりと胃腸の弱い子で、すぐにお腹を壊してはそれを弱点のように感じて気にしていましたが、もし今彼に会えるなら「そういう体は、悪いものが体に入ったことを早い段階で察知して、素早く排出する機能が鋭く働き続けている能力の高い体なんだよ」と、通りすがりの優しいお兄さんのフリして教えてやりたいです。

そして、感受性がストレスや辛さをそのつど意識化させ落涙を促すことは、ストレスを外に排出するための精神面での代謝機能と言えそうですよね。

人間以外の生き物が泣かないのは、きっと精神がそれ程複雑でないために泣く必要がないからなんだと思います。
逆に言うと、辛いことの多い人間は泣く必要がある生き物なんじゃないでしょうか。
 
カタルシスというものがありますね。
悲劇を鑑賞して気持ちがスッキリと浄化されるようなことですが、泣くのがただ辛いだけの行為ならば、人はすき好んで号泣する映画を見に行ったりしないワケです。
でも、実際には皆結構泣くことが好きですね。

近年、実際に涙の中にコルチゾールというストレス成分が含まれていることが発見されたらしいのですが、物質的な代謝が行われていることも証明されてしまいました。

大人だと、概して女性の方がこの手の機能を使いこなせている感じがしますよね。
泣ける映画とか好きだし、泣きながらお料理出来たりもしますね。
その心地良さや効用を感覚的に知っているんでしょう。

昔カタギの男性は、女性のこういう所を不信に思ったり恐がったりしますが、何のことはない、健康法みたいなもんです。

若い頃は僕もこういうことを知らなかったので、知人の女の子が失恋をした後、しばらくの間ちょっと大丈夫かと思うくらい泣き続けて、心配していると数日後にはウソみたいにケロッとしてたりして驚かされたものです。

短期間でストレスを全部吐き切って、スパッと忘れてしまうんですね。
動物のように体の本来的な機能を有効に使った見事なストレス対処で、男子にはマネの出来ない本物のタフさだと思います。

男も同じ様にすれば良いと思うのですが、我々は子供の頃から泣くのがよくないことと言われて育っているので、今から急にああいう泣き方をしようと思っても簡単にはマネ出来ないです。
わんわん声を出して泣くような方法を、もう体が覚えていないんですね。

で、やせ我慢をしたあげく、いつまでもそのことについて語ったり胃に穴開けたりするのが男なんです。
生ガキにあたって「オレは胃が強いから平気だ」と言い張って吐き気をこらえ、体中に毒を回してしまうようなもんですね。

辛いことがあっても、それをちゃんと悲しめて泣けている内は、少なくとも精神機能は大丈夫な気がしますが、逆にストレスを消化出来ずに長引いて感情が効かなくなって来ると面倒なことにもなってしまうので、今泣ける人には日頃から沢山泣いて精神を健康に保つことはきっと意味のあることでしょう。

時々「意味もなく涙が出て止まらない」という時期が来る人がいますが、「長期的に溜まっているストレスを自動的に排出する」という精神の代謝機能が非常に優れた人なのかも知れませんね。

話がそれますが、先日TVでブータン王国の生活をリポートする番組を見ていました。

ブータンといえば、国民の幸福感をリサーチすると、その数値が世界でもずば抜けて高い国として有名ですが、リポーターが地元の人にストレスについての質問をしようとした所、通訳の人が「ストレスの意味にあたる言葉がこの国にはない」と困ってしまう場面があり、出演者も皆そのことに驚いていました。

僕も驚いて、ストレスという概念がないのかなとか考えていたのですが、考えてみたら「ストレス」って外来語ですよね。
元来その意味で使われた日本語を考えてみたのですが、やっぱり浮かばないんです。

昔の日本にだって無かったんですね、ストレス。

もちろん疲労や苦しみはあったのでしょうが、我々が一般的に「ストレス」と呼ぶ、あの現代的社会的な疲弊感とは違うものなのでしょう。

ブータン政府の高官は「経済発展と競争」を、幸せを奪うものとして危ぶんでいました(あの国は政府がこういう考え方するんです)が、やはり日本人のスト
レスもこれに伴って持ち込まれたものなのでしょうか。

経済発展には良い所もありますが、その中を生きる我々はストレスをウマくかわしてゆかなければ生きてゆけないんですね。

というワケで、泣ける話のご紹介です。

アール座の書棚は基本的に、限られた時間の中で軽く手に取ってどこから開いても楽しめるアートや写真、図鑑などのビジュアル本、文学なら短編や童話、詩集が蔵書の中心なので、最初から最後まで読んでがっつり泣ける物語というものは多くはないのですが、それでもあるにはあります。

中でも軽く泣ける話というのは、概して文学的要素の薄い高学年向けの児童書に多い気がします。
どうぞ今月はアール座のリラックスタイムをあなたの涙で濡らして下さい(何だそれ)。

ギャラリー展示中なので、本は全て書棚にあります。

「西の魔女が死んだ」 書棚ボックス、左から2列目、上から2段目の「童話、ファンタジー」のコーナー

奇才、梨木果歩のデビュー作ですが、実はこの名作、出版用に書き下ろされたものではないんだそうです。
作者が、かの名臨床心理学者、河合隼雄の下でアシスタントの仕事をしていた際、個人的に先生に読んでもらおうと書いて送ったものに河合が感動して、「こ れは出版しなければいけない」と勝手に出版社に送りつけてしまった作品なんだそうです。
英国の魔女の血筋を引く祖母と少女の心温まる物語。

「裏庭」  書棚ボックス、左から2列目、上から2段目の「童話、ファンタジー」のコーナー

比較的ファンタジー要素の少ない、現実的な「西の…」に対して、こちらは主人公の少女がどっぷりと濃いめのファンタジー世界に入っちゃいます。
それぞれが心の中に葛藤を抱える現代的な家族の物語でもあり、後半の要所要所に、地雷のように泣き所が…。

「肩甲骨は翼のなごり」 書棚ボックス、左から2列目、上から2段目の「童話、ファンタジー」のコーナー

昔古本屋で見つけたのですが、有名な作家さんなんでしょうか。
少年が新たに引っ越して来た家の倉庫に、人間らしからぬ見知らぬ男が…。
近代米文学っぽいアメリカンテイストのファンタジーで、カッコいい童話です。

「ドラえもん 第6巻」 一番右のラック、下から3段目のコミック本のコーナー

名作ぞろいの呼び声高い6巻です。
子供の頃生家の立て替えに際して漫画本を大量処分しなければならず、20冊程あったドラえもんも手放したのですが、この一冊だけは捨てられませんした。

「夕焼けの詩」 一番右のラック、下から2段目のコミック本のコーナー

読み切りマンガなので色々な話がありますが、たびたびホロリと来る話があります。
号泣は期待出来ませんが、どの巻も非常に小気味よい作品集でオススメです。映画の「ALWAYS」シリーズとは別物と思って下さい。

「藤城誠治 影絵の世界展」 ボックス、右から3列目、最上段の「日本画、日本美術」のコーナー

「泣ける」というポイントは人によってかなりツボが違ったりするので、今月のおすすめは参考程度に思って頂きたいのですが、アート作品にまでなると全く
責任が持てません。
ただ、僕は結構泣きそうになりました。


軽く泣いて下さいとおすすめしましたが、その日の精神状態によってはドラえもんで嗚咽してしまう方もあるかもです。

今月はそんな人を見ても、そっとしておいてあげましょう。
きっと色々あったんです。


category:2012 | by:アール座読書館 | - | - | -

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