虫の声

2010.09.15 Wednesday 00:27
ようやく涼しさが感じられる様になってきました。
と言ってもまだ毎日30℃あるのですが、これだけの夏をやり過ごした後だと十分に涼しく感じてしまいますね。
これから平均気温24℃位の過ごしやすい季節が本当に来たりするんでしょうか。
この夏の後だと、そんな素敵な気候がなんだか信じられないというか、バチがあたってしまいそうな感じです。

さて、アール座では毎年ご好評を頂いている虫の声イベントが今年も始まっています。

「リィィィン」と鳴く鈴虫や「ピンッピリリッ」と鳴く松虫、「ヒョロロロ…」と鳴くエンマコオロギが店の欄干や店内で心地よい音楽を奏でてくれています。
毎日、日暮れ頃になると「ピッ…」とか「リン…」とか澄んだ声で切れ切れに鳴き始めたかと思うと、次第に声が重なりやがて美しい波音の様な合唱になってゆく様子は幻想的ですらあります。
よく鳴いてくれる日はBGMも消しちゃいます。
机の上に小冊子がございますので、一緒にお楽しみ下さい(少し数が足りないので、机にない場合はお知らせ下さい)。
大昔から日本人の心を和ませて来た秋の風物詩をお楽しみ下さい。

なんか今年のアール座はやたらと昆虫のお世話になりますね。
所で、日本ほど虫が文化の中に入って来ている国はないんだそうです。
例えば、子供が昆虫を捕まえて来て虫かごに入れて家で飼う、と言う当たり前に思える行為は、外国(西洋?)に行くと全く見られないんだそうです。
なので、当然大人の昆虫マニアと言う存在も世界的に見ると特殊で、美しい蝶を求めて熱帯の地域に赴き網を振る人々の内、業者や研究者ではないアマチュアの採集家は日本人ばかりだと聞いたことがあります。

またアメリカでは、セミが沢山鳴いている地域の人でも、結構「セミ(cicada)」と言う単語を知らないらしいです。説明すると「ああ、いるいる。あのうるさく鳴いてる虫ね」と、まるで眼中にないコメントが返って来るそうです。

この辺の話は全て僕が人づてに聞いただけの話なので信憑性の程は分かりませんが、外国人が虫の声に耳を貸さないと言う話は有名ですよね。
コオロギのリリリーと言うあの声もやかましいノイズでしかないんだそうです。

もちろんこれは民族的な感受性の優劣などの話ではなく、きっと文化の違いなんでしょうね。
虫の声がすると「ああ良い声ねぇ」と大人が言うのを聞いて育つから、子供はそれを良い声として聞ける様になるのかも知れません。

日本は自然が豊かで比較的和やかだったから文化がそれに親しみ、取り入れる方向に発展した、と言う話は建築の話なんかでよく耳にしますね。
お花見やお月見、新緑、紅葉、虫の声、水音、蛍、苔、雪等々、古来から日本の文化がこんな風に繊細な自然の風物詩を楽しむ趣味を持っているのは、我々にとって、とても幸運なことだと感じます。
近頃はトシのせいか「今身近にある幸せに気づく以外に幸せになる術はないのだろう」などと腕組みしつつ感じている僕は、この手の穏やかでジジむさい趣味は大好きです。

でも現代の日本では自然美を味わう楽しみがすっかりマイノリティになってしまいましたね。
お花見とかやっても、花見ないですからね(笑)。

それでも最近はそういうものが一昔前より見直されている様にも感じます。
強い刺激の好きな経済が猛威を振るっていたバブル期には、刺激にうかされた大人達が子供達のさめた目線からアホみたいに写っていたのかも知れません。
そんな世代が世間の価値観の担い手になる年齢になって来たのかな、とかも思っています。
それに、何よりこんな時代にこそ重要性を増す価値観だからかも知れませんね。

当時の僕はてっきり、自然の風物詩のように地味でお金にもならない楽しみは、時代が進めばこの国から消えてしまうものとばかり思っていました。

でも最近では、長い時間をかけて培われて来た日本人の感受性がそう簡単に失われるはずないか、と考える様になりました。
特にアール座のお客様には、当たり前の様にそんな感性を大切に日々を過ごされている様子の方がとても多く、ここを営む様になってから、僕のそんな思いは確信に変わりました。

まぁ見方によっては、こういう穏やかな楽しみがマイノリティなのも悪くないですよね。
本当に良いものに大衆が殺到しない状況は、良さを知る人にとってはそれを静かに楽しめる絶好の環境ですもんね。
時々アール座のお客様に「好きな人、分かる人にしか教えたくないお店」と言って頂けることがありますが、これはとても嬉しいお声の一つです。

最初の話から大分それて行きましたが、虫の寿命は長くないので、例年は十月に入ると虫の声は減ってきます。
虫達が全滅するまでの企画なので、しっかりとしたアンサンブルで聞いてみたい方はぜひお早めに(遅いお時間に)遊びに来て下さいね。

category:2010 | by:アール座読書館 | - | - | -

星空観察のすすめ

2010.09.06 Monday 22:34
僕は幼い頃、一度でいいから本物の星座というものを見てみたいと思っていました。
けれども、いくら星空を見上げても僕には星座が見つけられませんでした。
大人達は、あれがオリオン座だとか白鳥座だとか指差して教えてくれるのですが、いくらその方角を見てもそこに星座はありませんでした。
一体どうしたことでしょう?

実は幼い僕は、書物等で紹介されている星座の図に必ず描かれている「星と星をつなぐ光の線」が実際の夜空にも輝いているものとばかり思っていたんですね。
その線と星をひっくるめて星座と呼ぶものだと信じていました。
だから星座はとても珍しいものだという意識があって、一度でいいから見てみたいと思いながらいつも星空を見上げていました。

小2の夏休みに姉と満天の星空を見ながら「どこにも星座が無い」「星座だらけだ」と口論になり、結局「あれは本だけだよ」という一言で僕の長い勘違いが終わるのですが、今でもその頃想像した「夜空に妖しく輝く光の線」の印象は覚えていて、「一度でいいからそんなの見てみたい」という願望だけがそのまま残っています。

僕が幼い頃にはまだ都内でもかなりの星が見えていた気がしますが、最近では天気が良くても一等星がやっとなくらいでしょうか。
夜空が味気ないのは寂しいですが、それでも旅先等で満天の星空に出会うと、それだけで気絶する程(?)感動出来るのは東京育ちの特権だと思って、僕は必ず時間をかけて眺める様にしています。

今、店内エアコン下の机上展示コーナーでは謎の宇宙研究所オリオンラボ(→http://d.hatena.ne.jp/halujion)による、天文、星座と神話、古代の世界観等に関する不思議な研究報告会が催されており、それに合わせて天文、神話関係の書籍をその脇に集めてあります。
何かの機会で満天の星の下に立った時のために、あらかじめこの辺の情報が入っていると、いつもより数倍夜空を楽しめると思います。
そこで今回は星空観察のおすすめをしてみようかと思います。

望遠鏡による観測の方は近年宇宙望遠鏡なんかも打ち上げられ、天体画像の精度も格段に上がって来ましたね。→「ハッブル望遠鏡が見た宇宙」参照
こうなると遠い宇宙が身近に思える様になるのかと思ったら、気の遠くなる様な宇宙の奥行きが見えて来て、かえって宇宙が奥まで広がった感じもします。
それに対して肉眼宇宙観測は迫ってくる宇宙を実感するのが醍醐味です。

星空を見る時は、どこかに焦点を合わせるのではなく、ぼーっと全体を眺めるのがコツだそうです。
時間をかけて見ていると次第に目が慣れて来て、見始めよりもかなり沢山の星が見えてきます。

先ず目を慣らすために、僕は決まって星座を探します。
今となっては星座に線がないこともよく知っているので、明るい星を見ながらオリオンとかカシオペアとか分かりやすいのを見つけ、その位置関係から他の知っている星座を見つけて遊びます。

星にまつわる神話を知っておくと、そんな時さらに楽しめます。→オリオンラボ「夏の星座」(国語のノート)、「星のギリシア神話」他 参照
これからの季節ならエチオピア王家と英雄ペルセウスにまつわる話だけでも覚えていれば、大きな星座を7つほど巻き込んで展開する一大スペクタクルの物語を夜空に見いだすことが出来ます。→「オリオンラボ月報」「ギリシア・ローマ神話」他参照
若い男子なら女の子に語り聞かせてロマンチックなムードに…などと考えるかもしれませんが、意外にひかれてしまうのでやめておきましょう。
僕は二度とやりません。

それに飽きたら、星の奥行きを見るのも楽しいです。

星座として見ている時は星々がドーム状の天空にへばりついている様なイメージで見ていますが、もっと空間的なイメージを持ち「宇宙を、その中から見ている」という意識を強めます。
適当でいいから星を手前や奥に配置したり、お決まりの「あの光は数千〜数億年前の星の姿なんだ」という事実を思ったりして、とにかく奥行き空間を感覚するよう努めると、突然信じられないような距離感が実感出来て吸い込まれそうな恐怖感を味わえたりします。
地球上で、自分が想像を超える広大な世界に生きていることを体感する唯一の方法ではないでしょうか。
満天の星空の下でこれが出来ると、宇宙船に乗らずとも地上から十分に宇宙観測が楽しめますよ。

またそれとは逆にドーム状イメージのまま、天動説をリアルに想像して見るのも楽しいです。
サイズ的にも見た目も意外に地動説宇宙より想像しやすい気がしますが、現代ではそれが事実ではないということが我々の頭に根付いているので、とてもファンタジックな気分になれます。
天動説は時代、民族により様々なタイプの世界観があり、非常に想像力豊かな注目すべき分野ですよ。→オリオンラボ「人の数だけある宇宙!」(算数のノート)参照

現代の科学的宇宙像がお好きな方は、天文学的な数値や理論物理学の話と一緒に星空を楽しむのも良いでしょう。→「学研ニューワイド図鑑科学」「ホーキングの最新宇宙論」他参照
書物を読むだけでは実感を伴わない文字情報を、星空の下では体感的にイメージ出来るのが楽しいです。

銀河系の円盤部分である天の川を見ながらテキトーに銀河系の大きさを思い浮かべて、「一つの銀河には数十億の恒星が含まれていて、その銀河がこの宇宙に500億あって、泡状の構造に分布してるらしいぞ…」とか思いましょう。

星までの距離が何光年と言うのもあまりピンと来ませんよね。
地球から月の少し手前位まで1秒間で行くスピードが光速ですので、その距離のイメージを10秒、1分、1時間と、夜空に向かって伸ばしていきます。
必死で頑張って4年まで持っていければ、それが地球から一番近い星までの距離の実感です。

銀河系の直径はこのスピードで10万年、それが集まる「銀河団」が更に大集団を作る「超銀河団」は1億年分進んだサイズと言うことです。
うーん、やっぱりピンとは来ませんが、それでも少しだけ凄まじさが感じられませんか?

他に「星々の光は数年前から数億年前まで様々な異なる時間を同時に映している」とか「この宇宙は我々の感じられない方角に歪んでいて、空間がボールの裏面の様にぐるっと一周して閉じている」とか時空に関する話題も星空観察にぐっと深みを加えてくれるでしょう。

星空の下で考え事をしていると、結局最後には哲学的な思索や人生を引きで捉えらる視点まで行けるので、良く言う「ちっぽけな自分の悩みがバカらしくなって来る」という思いにもなりますが、これは朝になると必ず嘘の様に覚めていますね。
それでもその覚めた現実的な感覚の中に、何か号泣した後の爽やかさの様な、昨日までとほんのわずかに変わっている部分が感じられたりもします。
日常生活で疲弊している時には、こんなリフレッシュ効果が期待出来るのかも知れませんね。


ギャラリー情報
9/1(水)〜9/15(水)
「奏でよ宇宙展」 ORION LABO 

昨年もご好評を頂いた、謎のいんちき科学研究所「オリオンラボ」の学会発表リポート第2弾です。
天文学、星座、神話、音楽とあらゆるジャンルを独自の視点から研究する、読み物あり展示ありの不思議な個展です。
感性豊かな所長さんの、妖しくもロマンティックな世界観を是非ご堪能下さい。

作家さんブログ→http://d.hatena.ne.jp/halujion/20100825#1282754961
category:2010 | by:アール座読書館 | - | - | -

PR
Calender
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
2627282930  
<< September 2010 >>
Selected entry
Category
Archives
Profile
Search
Others
Mobile
qrcode
Powered
無料ブログ作成サービス JUGEM