詩の力

2010.06.08 Tuesday 23:02
次第に空気が湿って来ましたが、このまま梅雨入りするのでしょうか。
今年は雨音が鳴り出したら、室内にこもって(毎日こもってますが…)詩の世界に浸ってみるのもいいかな、とか思っています。
というのも、この前TVで詩人まどみちおのドキュメントを見て、現代にもこんなスゴい偉人がいたんだなぁと驚き、思わず詩集を買ってしまってからのことなんです。

御年100歳になるこの老詩人は、散歩中に出会うアリや枝先に芽吹く新緑、池の水面の波紋などにただならぬ好奇心を示し、何時間も眺め続けたりする素敵な人です。
身の周りに起こる全て出来事と真摯な姿勢で向かい合い、この世界の不思議さ、生命への畏敬の念を唱い続けています。

日本人なら誰でも知っている「ぞうさん」という童謡がありますが、作詞をされたまどさんが番組の中であの歌の真意について語っておられました。
「ぞうさん ぞうさん お鼻が長いのね」という冒頭部分には、実は皆で仔ゾウをからかっているニュアンスがあるのだそうです。「お前ずいぶん鼻が長いなあ、鼻が長くてヘンなヤツだなぁ」と。
普通こんな風に言われたら「本当にボクだけ何でこんなに鼻が長いんだろう」と傷つき、自分を卑下してしまう所ですよね。

ところがあの歌のゾウ君は、皆とは違うその特徴を、悲しむどころか少しも恥じることなく「そうだよ!ボクは鼻が長いんだ」と堂々と肯定してみせます。
この世に持って生まれた自分らしさを恥じる気持ちなど、みじんもありません。
そしてさらには「ボクの大好きなお母さんも鼻が長いんだよ」と誇らしげに言ってのけます。
親から受け継ぎ、神様から頂いた個性を喜び、誇りに思う気持ちが歌われている詩なんだそうです。

ヤバいですよね、この歌。説明しながらも泣きそうです。
何も知らずにお遊戯で歌わされる歌ですが、場合によっては人生観を変えられてしまうような強いメッセージです。
ともすると人は他人の価値観で自分まで評価してしまいがちですが、このゾウ君を思うと、人と違うとか皆とズレてることって素晴らしいことなんだなぁと思えてきます。

詩の威力はすごいですね。
他の言語情報とは違って、作者がその時感じた情感が直接心に届く感覚は絵画や音楽に近い気がします。
色彩や音符を扱う様に、一つ一つ単語のイメージを配置してゆくからでしょうか。
文章を組み立ててしまう僕などは、直感的に言葉をつづる「詩」というものが中々書けないのですが、それでも時々無性に詩集などを読みたい気分になることがあります。

そこで今月は詩集をおすすめしてみたいと思います。

アール座の書棚にも、多くはないですが詩集を集めたボックスがあります。
そこから抜粋したものを例によって長机のおすすめコーナーに陳列致します。

僕が最初に詩に興味を持ったのは萩原朔太郎だったと思います。
感受性むき出しの深く傷ついた病的な表現がとても美しく、またカッコ良く感じました。
その時代はセンシティブな感覚がネクラと言う言葉で疎まれてもいましたが、その反面強いカリスマで、ある種の人々を惹き付けていました。
中原中也銀色夏生なんかも人気だったでしょうか。
僕もどうしてか暗いものに心が安らいでしまう質なので、迷わずどっぷり浸かっていました。
病める朔太郎が見た戦慄と恐怖の表現などは、今読んでもぐっと来ます。

他に歯切れ良いリズムで鮮やかに詠い上げる室生犀星や、感性豊かで深みのある高村光太郎などの詩も好きです。
どちらも美しい情景描写に透ける様に詩人の信仰や思想が写っていて心地よいです。

自然と哲学、この世界への尽きない興味、という視点において、まどみちおの先駆は宮沢賢治でしょう。
とにかく色彩感覚とビジュアル表現が鮮やかで、実在の色や光では再現出来ないと思えるような超越した美しさがありますが、美しい森の写真に賢治の言葉を添えた写真詩集「シーズン・オブ・イーハトーブ」は、そんな限界にも迫っています。

一つ一つのことばを丁寧に紡いで詠う岸田衿子の詩も良いです。
詩画集「ソナチネの木」では、安野光雅の柔らかくもエキゾチックなイラストと美しく溶け合い、何とも幻想的です。

有名な「たいようのおなら」は7、8歳以下の子供達の作品を集めた詩集ですが、その見事なリズム感と斬新な発想たるや職業詩人を凌駕する感があり、初めての方には必見です。

他に詩ではありませんが、さすらいの俳人山頭火の味わい深い句集も良いです。
僕が崇拝する乞食坊主良寛の漢詩は、是非、絶品の筆跡及びその解説と共にお楽しみ下さい。
道を切り開こうとする者には大変な力をくれる岡本太郎の言葉たちも、魂のこもり方が詩的ですらあるので(こじつけ)一緒に並べちゃいます。

詩というと繊細でロマンチックなイメージばかり強いですが、実際にはたくましさや力強さ、きっぱりとした潔さ、カラッとした心地よさに貫かれているポジティブなものの方が意外に多い様に感じます。

我々が当たり前に手にしているものの素晴らしさを教えてくれるまどみちおの詩の様に、ポジティブな感覚の言葉はうまく感性が合って内面にまで響いてくると、ただならぬ力を与えてもくれます。
言葉一つで人生が変わったと言うような話はよく聞きますよね。
場合によっては長い憂鬱の時期を切り替えるターニングポイントにもなるでしょう。

もちろん難しいことは考えずに、ただ単純に詩を楽しむ時間も素敵ですよね。

梅雨時は内面をチャージするのに絶好の季節ですので、喫茶店で詩にどっぷり浸かってみてはいかがでしょうか。

category:2010 | by:アール座読書館 | - | - | -

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